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第7話 ピッコロの通院 つづき
2017.5.23更新
ピッコロは、ブラック3900先生から「虫歯の治るハミガキ」をもらって家に帰ってきました。そして、さっそくハミガキを使ってみると、なんとなく虫歯の穴が小さくなったような気がしました。
そこで、次の日も次の日も、そのハミガキを使いました。すると数日後には、すっかり穴がふさがって虫歯が治ってしまいました。
ピッコロは、びっくりしました。
やがて一週間が過ぎて、ピッコロは、ブラック3900先生の診察室へ行くと、ブラック3900先生に言いました。
「あのー、ぼくの虫歯がすっかり治ったんですけど。」
すると、ブラック3900先生は言いました。
「フッ、それはよかったな、フッ。つまり、私の研究が成功したということだな、フッ。
それはそうと、どうやってこのハミガキを虫歯で苦しむ多くの人に提供するかが問題だ。
フッ、私はお金はいらない。ただ、人類が幸せになればそれでいいのだ、フッ。」
それを聞いたピッコロは言いました。
「あのー、ぼくにいい考えがあるんですけど。ぼくが、あのハミガキを売ってあげましょう。あのハミガキが売れれば売れるほど、虫歯で苦しむ多くの人が救われます。そうすれば、開発した先生の地位が高まり、先生は名誉を手に入れることができます。
あのー、先生は、お金には興味がないという気高く崇高な精神をお持ちになる方ですので、売上代金は・・・・、わかりました、ぼくがもらっておいてもいいんですけど。
あのー、先生が、どんどんハミガキを作れば、ぼくが、どんどん売りますから、一日に100個作って欲しいんですけど。
あのー、ぼくは、先生の地位と名誉のためにがんばりたいんですけど。」
すると、ブラック3900先生は言いました。
「フッ、私は、ただの人格者ですから、地位と名誉には、少ししか興味がないよ、フッ。」
こうして、ブラック3900先生は、ピッコロの話を承諾して、一日に100個ずつハミガキを作りました。
ピッコロは、カエル夫婦の豪邸の庭の物置小屋に住んでいますが、カエル夫婦からパソコンを借りると、自分のホームページを作成して、インターネットに公開すると、「虫歯の治るハミガキ」を紹介して、1個1000円で販売することにしました。
すると、またたく間にたくさんの注文があり、ピッコロは返品無用と赤字で書いた封筒にハミガキを入れて送りました。
こうして事業を始めましたが、すぐに人手が足りなくなり、近くの田んぼに群れを作ってたくさん住んでいる「こびとさん」にお手伝いをお願いしました。
すると、1000人以上の「こびとさん」がやってきて、人海戦術の無報酬で働いてくれました。
「こびとさん」は、目が3つ、手と足が3本ずつあり、バランスが悪くよく転びますが、ブラック3900先生の研究室からハミガキを運んだり、封筒を買ってきたり、ハミガキを発送したりと、何から何までやってくれました。
こうして、ピッコロはお金持ちになりましたが、お金持ちになると、誰も信じられなくなり、銀行に預金しておくのも不安になりました。そこで、自宅のタンスに預金しました。
今では、タンスが3つに増え、ピッコロは、タンスの中の札束をながめる貯金鑑賞が趣味になりました。
おしまい
今回は、ピッコロがお金持ちになる話で、読者のみなさんはストレスがたまっていることとお察しします。
次作は、「ピッコロの釣り」というタイトルで、ピッコロが一文なしの貧乏になるというお話しです。
読んだら、きっとスッキリしますよ。乞うご期待。
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第6話 ピッコロの通院
2017.5.21更新
最近、ピッコロは、精神と気管とめまいと虫歯の具合が悪いので、カエル医科大学に勤務しているブラック3900先生ところへ行くことにしました。
ブラック3900先生は、診察室にいました。
まずピッコロは、先日、沼に宝の斧(おの)を落としたけれど、お釈迦様から信じてもらえず斧を返してもらえなかったことを話しました。
そして、ブラック3900先生に言いました。
「あのー、最近、ぼくの言うことを誰も信じてくれないような気がするんですけど。」
ブラック3900先生は、冷やかな目でピッコロを見ています。そして言いました。
「フッ、そんなことないでしょう、フッ。」
ブラック3900先生は、ピッコロの言うことを信じませんでした。
次に、ピッコロは、気管が痛いことを話しました。
「あのー、ぼくはタバコを吸うと、すぐにのどが痛くなるんですけど。」
するとブラック3900先生は、言いました。
「フッ、じゃあ、タバコをやめなさい、フッ。」
その次に、ピッコロは、めまいがすることを話しました。
「あのー、ぼくは、貧血じゃないかと思うんですけど。」
するとブラック3900先生は、言いました。
「フッ、それは金欠だな、フッ。」
また、最近ピッコロは虫歯が痛みます。この痛さから逃れるため、頭を壁にぶつけていました。すると、ぶつけた時には頭の方が痛くなり、ほんの少しの間だけ虫歯の痛さから解放された幸せを感じました。しかし、頭の痛みがおさまると、また虫歯が痛くなります。
そこで、ブラック3900の先生に言いました。
「あのー、ぼくは虫歯が痛いんですけど。」
ブラック3900先生は、すぐにピッコロの虫歯を診察して言いました。
「これからオペを開始する。」
ピッコロは、びっくりしました。
ピッコロは、注射が大嫌いです。何本も注射をされて手術を受けるなんて、到底できません。
そこで、次のように言いました。
「先生は、他人が考えつかないような新薬を開発する天才薬剤師でしょう。それなら、虫歯を治すハミガキを作れるはずです。そうです、先生なら必ずできます。
まだ、薬が完成していないなら・・・、わかりました、ぼくの虫歯で臨床試験をしてください。
虫歯を治すハミガキを世界中の人たちが、一日千秋の思いで待ち望んでいます。
ぼくは、先生が地位と名誉しか興味がないことを知っています。もし、この新薬が開発されたら、世界中の人たちが先生を称賛します。先生の地位と名誉のため、新薬を開発してはどうでしょうか。」
ブラック3900先生は、何か考えているようでしたが、さっと診察室を出ると隣の研究室に行きました。そして、しばらくして戻って来ると、自分で処方したハミガキを持ってきてピッコロに言いました。
「フッ、このハミガキは虫歯が治るハミガキだ。まだ試験段階で、厚生労働省の認可を受けていないが、これを一週間使ってみなさい、フッ。
私は経過を観察したいので、一週間後にまた来なさい、フッ。」
ピッコロは、虫歯の治るハミガキを持って、自宅に帰りました。
つづく
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第5話 ピッコロの宝島
2017.5.20更新
ピッコロは少年の頃、宝島を冒険したことがあります。これは、その頃のお話です。
ある日、ピッコロの住む港町にビリーという男がやってきました。ビリーは誰かに追われているようで、安心して泊まれるところを探していて、ピッコロの母が営んでいるビンボー邸という宿屋に泊まることになりました。
しばらくすると、ビリーを追って海賊たちがやってきました。ビリーは宿屋に荷物を置いたまま、逃げていきました。
ピッコロは、ビリーが残して行った荷物の後始末をしていましたが、その中に一枚の地図を見つけました。
ピッコロは、町の有力者にすべてを話して地図を見せると、町の有力者たちは、この地図を宝島の地図だと考えました。そこで、宝島へ乗り込んで宝探しをすることになりました。
まず、町の有力者たちはそれぞれが出資して船を借りました。次に、船乗りたちを募集しましたが、その中に一本足の海賊シルバーとその仲間が紛れ込んでいました。そうとは知らず町の有力者たちはピッコロも連れて宝島を目指して出航したのです。
航海してすぐに、ピッコロは優しくて頼もしいシルバーのことが大好きになり、毎日わくわくしながら航海を続けました。
シルバーは、航海の初めのうちはおとなしくしていましたが、徐々に海賊の本性を現し、海賊の仲間とともに宝を横取りしようとします。
一方、シルバーの仲間にならなかった町の有力者や船乗りたちは必死に抵抗しました。そしてついに、シルバーたち海賊に勝利し、シルバーをつかまえました。
その後、有力者たちは金銀財宝の宝物を見つけて、故郷の港へ帰ることにしました。しかし、シルバーはその途中で、船から脱走してしまいました。
こうして宝物を手に入れた有力者たちは故郷へ帰ってきますが、宝物の分け前について、ずるい大人たちが相談した結果、「ピッコロは未成年」という理由でピッコロは全く分け前をもらえませんでした。
ピッコロは、びっくりしました。
ピッコロは自分一人だけ仲間外れにされて、とても寂しくなりましたが、「大人の言うことは正しいのかな。」と思って、悔しいながらもあきらめました。
やがて10年が過ぎ、ピッコロは船乗りになりました。そして、航海の途中で偶然に寄港した小さな港町で、シルバーに会うことができました。
ピッコロが宝島へ航海したころは、ピッコロはまだ少年でした。あれから10年が過ぎて青年になったピッコロがシルバーに声をかけましたが、シルバーはピッコロだと気がつきませんでした。
シルバーは、「昔のことは、もう忘れたな。」と言って、逃げるようにピッコロから去っていきました。
ピッコロが後を追いかけても見失ってしまい、もうシルバーには会えませんでした。
ピッコロは、その後もシルバーの手がかりを探しながら航海を続けました。
それから、数年が過ぎて航海の途中で寄ったある港町で、シルバーのうわさを耳にしました。そして、やっとシルバーが住んでいる島を見つけました。
ピッコロがその島に上陸すると、素敵なロマンスグレーになったシルバーに会うことができました。ピッコロは、これまでのことをシルバーに話しました。
・・・自分はピッコロで10年以上前にいっしょに宝島へ航海したこと、そのときシルバーのことが大好きだったこと、やっと見つけた宝物の分け前を全くもらえなかったこと、青年になり自分も船乗りになったこと、そして、何よりもシルバーに会いたかったこと・・・
ナイスミドルとなったシルバーは、静かに優しく温かいまなざしで微笑みながら聞いていました。
ピッコロは、そんなことを話しているうちに、あの宝島への希望に満ちた航海は夢だったような気がしてきました。いや、本当であったとしても、あの少年時代には戻ることができないんだなと考えているうちに胸がいっぱいになり、涙が流れてきて、もう話すことができなくなってうつむいてしまいました。
しばらくして、ピッコロが顔をあげてふとシルバーの顔を見ると、シルバーの目にも涙が浮かんでいました。
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第4話 ピッコロの金の斧(おの)
2017.5.3更新
ある日、カエルのお父さんは、自分の豪邸の庭園にある沼のまわりの木を切ることにして沼に出かけて行きました。そして沼に着くと、鉄の斧でカツンカツンと木を切り始めました。
しばらくすると疲れてきて、手がすべって鉄の斧を沼の中に落としてしまいました。斧は、ドブンと沼の中に沈んでしまいました。
それを見たカエルのお父さんは、言いました。
「困ったな。斧がなければ木を切れない。困った。困った。」
すると、沼の中からお釈迦様が出ていらっしゃいまして、銀の斧をお持ちになって、お聞きになりました。
「カエルのお父さん。あなたは、今、沼に斧を落とされましたね。あなたが落としたのは、この斧ですか?」
それを見たカエルのお父さんは答えました。
「いいえ、私が落としたのは銀の斧ではありません。」
それを聞いたお釈迦様は、また沼の中にお入りになりました。
そして今度は、金の斧をお持ちになって出ていらっしゃいまして、同じことをお尋ねになりました。
カエルのお父さんも、前と同じように答えました。
「いいえ、私が落としたのは金の斧でもありません。」
それを聞いたお釈迦様は、また沼の中にお入りになって、今度はダイヤモンドとエメラルドとルビーで装飾された斧をお持ちになって出ていらっしゃいますと、同じようにお尋ねになりました。
「それでは、この斧でしょう?」
この様子を近くの木陰に隠れて、じっーと見ていた者がありました。それはピッコロでした。
ピッコロは、もう我慢できなくなって飛び出してきて、こう言いました。
「お釈迦様、お釈迦様。お釈迦様がお持ちになられた3本の斧は、以前、私が落としてしまったものです。ですから、どうか私に返してください。
私は、何年も何年も額に汗して働いて、苦労して貯めた貯金をはたいて、やっとそれらを買ったのです。
いえ、うそではありません。なぜなら、私は、生まれてからこれまで一度もうそをついたことがないからです。」
ピッコロは、お釈迦様に赤誠の限りを尽くして言いました。
それを聞いていたお釈迦様は、お手に持たれた書類を入れた紙袋の中から、ピッコロの過去5年分の所得証明書の写をそっとお出しになりました。
そして、優しくお尋ねになりました。
「それでは、これは何でしょうか。所得はないようですが、どうやって貯金をしたのでしょう。」
ピッコロは、びっくりしました。
しかし、すぐに気を取り直して、こんこんと湧き出して流れる流水のように、でまかせばかりペラペラと答えました。
「私は自営業者ですから、確定申告をしておりますが、間違えて収入ゼロと申告してしまいました。ですから、所得がないことになっています。」
それを聞いたお釈迦様は、悲しいお顔をなさっておっしゃいました。
「それでは、すぐに修正申告をしなければなりませんよ。正しい収入額を修正申告したら、そのときあなたの3本の斧をお返ししましょう。」
この言葉を聞くと、ピッコロはお釈迦様から石を頭に落とされたように感じました。まるで、次から次へと石の雨が降ってきて頭の上を転がって流れていくようです。
お釈迦様のおっしゃることは流石です。
こうしているうちに、お釈迦様は、カエルのお父さんのことをお思い出しになりました。そして、正直に元の「鉄の斧」だけをお返しになりました。
極楽は、デフレなのでございましょう。
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第3話 ピッコロの注文の多い料理店
2017.5.3更新
友達のいないピッコロは、一人ですっかりイギリスのロックバンドのようなかたちをして、ピカピカするリストバンドを巻いて、山へ狩りに出かけました。
でも、生き物の命をとるということは、自分の手を汚すことになると思い、自分だけはきれいなままでいたいので、「もみじ狩り」をすることにしました。
ピッコロが家を出るとき、細かい雨が降っていました。
ピッコロは、「今日は雨が降っている。してみれば雨天といってよいな。」と、つまらないことをつぶやきました。まるで、どこかのおじさんのようです。
それから、林の方へ進んで行きました。
途中で蜘蛛が一匹、目の前を横切りましたが、その蜘蛛をよけようとして転んでしまいました。
そして林へ着くと、ずんずん深い林の中へ進んで行きましたが、「もみじ」は一枚も取れませんでした。
ピッコロは、帰りに「もみじ」でも買って帰ろうとしましたが、帰り道がわからなくなっていました。
でも、どこかにきっと食堂があるに違いないと思ってあたりを見てみると「タマちゃん軒」という大きな看板がありました。こんな山の中ですが、ずいぶんと立派な食堂です。
ピッコロは、「たぶん、この食堂で偉い政治家が人目をはばかって、お食事を接待されたに違いない。」と思いました。ピッコロは、「汚職事件」のことを「お食事券」で接待することだと思っていました。
入り口を入るとお正月のお供えのようなお餅と、その横にそのお餅の絵が飾ってあります。ピッコロは、この意味不明の餅と絵を見て、たぶん、偉い政治家をもてなす飾りなのだろうと思い、「まるで、絵に描いたような餅だな。」と、さらに意味不明なことをつぶやきました。
ピッコロが家の中に入ってみると部屋の突き当たりにドアがあって、「こちらへどうぞ」と書いた紙がはってあります。
ピッコロがドアを開けると、水の入ったタライが置いてあり、その横には「料理を食べる前に、きれいに体を洗ってください。洗い残しがないようきれいに洗ってください。洗い終わったら、次の部屋へどうぞ。」と書いた紙が置いてあります。
ピッコロは体を洗って、次の部屋に行くと、「自分の毛をむしってください。頭も体も毛をむしってください。まだまだむしってください。むしり残しがないよう丁寧にむしってください。それができたら次の部屋へどうぞ。」と書いた紙が床に置いてあります。
ピッコロは、素直に頭と体の毛をむしって次の部屋に行きました。
そして次の部屋に行くと、まな板とネギが置いてあり、その横に「ネギを切ってください。一口サイズに切って串に刺してください。それを持って次の部屋へどうぞ。」と書いた紙が置いてあります。
ピッコロは、そのとおりにしました。
すると、次に部屋には食欲が出るようないい匂いがするお風呂があり、その横に「大変よくできました。毛をむしったら寒くなったでしょう。温かいお風呂を用意していますから、どうぞお入りください。ネギを刺した串といっしょにどうぞお入りください。」と書いてあります。
ピッコロは、串を持ってカワズのようにドブンとお風呂に飛び込みました。あたりは静かで、お風呂に飛び込む音だけが聞こえます。そして、自分の体をなめてみました。それは、とてもおいしい焼き鳥のタレでした。
このときになってピッコロは、「ここは猫のタマちゃんのお家で、このままでは焼きとりにされてタマちゃんに食べられてしまう。」と、やっと気がつきました。ピッコロは少し利口になり、一皮むけたような気がしました。
ピッコロは、タレのお風呂から逃げようとして、元気なカワズのように、ただもがいているばかりでした。
すると、遠い遠い天井から銀色の蜘蛛の糸が、まるで人目にかかるのを恐れるように、一筋細く光りながら、するすると自分の上へ垂れてまいるではありませんか。
この蜘蛛の糸は、お釈迦様が極楽の蓮池のそばからお下ろしになったものでした。
殺生の嫌いなピッコロは、ここへ来る途中で、歩いている蜘蛛をよけようとして自分が転んでしまいました。
お釈迦様のおん目からみれば、蜘蛛の命を助けたように見えたに相違ありません。このようないいことをしたのですから、お釈迦様はピッコロを助けてやろうとお思いになられたのでした。
ピッコロは蜘蛛の糸を見ると「しめた、しめた。」と思い、蜘蛛の糸にしがみつくと少しずつ上の方に上っていきました。
そして、「他人はどうなってもいいので、自分だけは助けて下さい。」と心の底から素直な気持ちで願いました。
そのときです。ピッコロのつかまっているところから、蜘蛛の糸がぷつりと音を立てて切れました。
ピッコロは、びっくりしました。
ピッコロは、自分さえ助かればよいというあさましい考えを素直に思っただけでしたが、そのせいで糸が切れたのではなく、糸がほつれて細くなっているところがあったために、そこから切れてしまっただけのことでした。
ピッコロは、ただ運が悪かったのでございましょう。あとにはただ、極楽の蜘蛛の糸が、キラキラと細く光りながら部屋の中途にたれているばかりでございます。
お釈迦様は、その一部始終をごらんになっておりました。そして、ご自分がお下ろしになられた蜘蛛の糸を、いそいでたぐり寄せられました。
そして、その糸をお手にお取りになりご覧になってみますと、ほつれて細くなり、今にも切れそうなところが何箇所かございます。
お釈迦様は、ほんの少しお顔を赤らめられました。
極楽は、もう昼に近くなったのでございましょう。
一方、ピッコロは、コマのようにくるくるとまわりながら、ドシンとタマちゃんの上に落ちました。
タマちゃんもびっくりして、「プルルル。」と巻き舌のような声で鳴いてどこかへ行ってしまいました。
ピッコロは怖かったので、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、心と顔がしわでクシャクシャになってしまいました。自宅に戻ってから温かいお風呂に入っても、もう元には戻りませんでした。
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第2話 ピッコロの杜子春
2017.4.29更新
ある春の日暮れです。唐の都、洛陽の西の門の下にぼんやり空を仰いでいる一人の若者がありました。若者は名をピッコロといい、かつて、ささやかな金額ですが、宝くじが当選したことがありました。
それを見ていたまわりの人は、ピッコロといっしょに宝くじを買うようになり、その後、一度ならず二度までも高額当選し、ピッコロは大金持ちになりました。そして、まわりのみんなの出資金額に応じて当選金を分配して生活していました。
ピッコロは、大金持ちになると贅沢な暮らしをしはじめました。庭にミステリーサークルやストーンサークルを造るやら、地上絵を描いてみるやら、顔が七つある七面鳥を何羽も放し飼いにするやら、日に三たび花の咲く朝顔と昼顔と夕顔を交配した新種を作るやら、鶴に機(はた)を織らせるやら、流木で車を造らせるやら、象をいすの代わりに座ってみるやら、もういちいち書いていたら、いつまでたってもこの話が終わりにならないほどです。
すると、そんなうわさを聞きつけて、ピッコロといっしょに宝くじを買いたいという出資者はどんどん増え、ピッコロの家には毎日たくさんのお客様が訪ねてきて、友達のいないピッコロにたくさんの友達ができました。
ピッコロは、その友達と3000円の会費で毎日、宴会を催しました。その宴の盛んなことは、なかなか語り尽くせるものではありません。ごくかいつまんでお話ししても、貝塚から出土した土器に焼酎を酌み交わしながら、天竺から来た魔法使いがナマケモノのまねをして木にぶら下がっている芸に見とれていると、そのまわりには20人の女たちが、10人は蜂の巣を、もう10人は松ぼっくりをそれぞれ髪に飾りながら、もの悲しく木琴を奏しているという景色なのです。
しかし、そのような贅沢な暮らしは、そういつまでも続くものではありません。次第にお金がなくなり、三年もたつと、とうとう一文なしになってしまいました。
そして、今では電信柱の上にあったカラスの古巣も電力会社から依頼された清掃作業員に撤去され、今夜、寝るところもなくなり、どうしたものかと洛陽の西の門の下にたたずんでいるのです。
あたりは夕日をあびて絵のような美しさですが、気の早過ぎるニワトリが二、三羽鳴いています。
するとどこからやってきたか、突然、彼の前へ足を止めた両目がパッチリした老人があります。そして、じっとピッコロの顔を見ながら、「おまえは何を考えているのだ。」と、おうへいに言葉をかけました。
ピッコロは、老人にむかって正直に言いました。
「私はピッコロという者で、以前、くじ運がよかったのです。私に宝くじが当たって大金持になった時には、友達は世辞も追従(ついしょう)もして、私といっしょに宝くじを買っていたものです。
しかし、私のくじ運が尽きて貧乏になってごらんなさい。あれほどたくさんいた友達は優しい顔ひとつしません。それどころか、今ではカップに一杯の焼酎も恵んでくれないのです。
人間は皆、薄情です。私は、もう人間というものに愛想が尽きたのです。
ですから、どうか私を金持ちにしてください。
いえいえ、隠してもダメです。私にはわかっています。あなたは徳の高い仙人でしょう。そうでなければ、私があなたに話をするはずがありません。」
老人は、おごそかに言いました。
「いかにも。俺は眉毛山(まゆげやま)に住む鉄冠子(てっかんし)ジュニアという仙人である。
そこで、ピッコロ君。どうだ、これから俺といっしょに眉毛山へ行って、仙人の修行でもしてみないか?」
すると、ピッコロは、あっさり断りました。
「いいえ、それはダメです。それは、今の私にはできません。修行とは苦しくてつらいものでしょう。そんなことはできません。」
この意外な答えに、鉄冠子ジュニアは、あてが外れて眉をひそめました。
しかし、すぐに気分を直して、次のように言いました。
「それでは、俺がいいことを教えてやろう。今、この夕日の中に立って、おまえの影が地に映ったら、その頭にあたるところを夜中に掘ってみるがよい。きっと、大きな車に積みきれないほどの黄金が埋まっているはずだから。」
それを聞いて、ピッコロは言いました。
「いえいえ、それもダメです。私は10tトラックに積みきれないほどの黄金が欲しいのです。」
それを聞いた鉄冠子ジュニアは眉間にしわを寄せると、一言も口をきかず自分で穴を掘り、埋まっている黄金を見つけると、まろぶように両手で抱きかかえ、ハラハラと涙を流しながら、「おかねさん。」と一声を叫びました。そして、自分で持って帰ってしまいました。
ピッコロは、びっくりしました。
ふと気がついてみると、ピッコロは以前のとおり、洛陽の西の門の下に立っていました。あたりは、しっきりなく人と車が往来しています。
すべてが、まだ眉毛山へ行かない前と同じことです。
空には、まるで瓜(ウリ)かと思うような細長い三日月が懸かっていました。
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第1話 ピッコロ登場
2017.4.29更新
ある都会の片隅にピッコロというオウムが住んでいました。
このオウムは、頭と意地が悪く、また運も悪いのでした。このような性格ですから友だちがいなく、また、お金もありません。
ピッコロは、まだオシリが青く、くちばしが黄色いくせに、すでにお腹は真っ黒です。
容姿は、全身は鮮やかな緑色でさわやかな好青年のようですが、顔を見ればふてくされているように目つきが悪く、意地の悪さ感じます。
また、身長は80㎝もありますが、足が8㎝しかないため、歩くのが遅いことも容易に想像できます。
これから、ピッコロのお話をする前に、主な登場人物を紹介しましょう。
タマちゃん
ピッコロの近所に住んでいる三毛のメス猫です。性格はさびしがりやさんで甘えん坊です。遊んでくれないと、「アーア。」と言ったり、「プルルル。」と巻き舌のような声を出して、どこかに行ってしまいます。
こびとさん
田んぼに住んでいます。体長は10㎝ほどで、目が3つ、手と足が3本ずつあり、バランスが悪くよく転びます。また、大きな群れを作って生活しています。
こびとさんの生態は変わっていて、冬には種になって、来年の春まで冬眠します。春になると種から芽がでて、水の中をゆらゆら泳ぎます。その後、何回か脱皮して初夏にはこびとさんになります。
秋になると、農家の稲刈りの手伝いをして、刈り取った稲で田んぼの中に縄文時代の住居跡のような50㎝ほどの家をたくさん作ります。
その後、透明な花が咲いて、透明な種になります。
メリしゃん
ピッコロの家に居候しているぬいぐるみの羊で、ピッコロと仲良しです、いつも微笑しています。
一見すると優しそうですが、実は、他人の迷惑を全く考えていません。
カエル夫婦
田んぼに住んでいるカエルの夫婦で、とてもお金持ちの資産家です。大きな田んぼや300棟以上のマンションを持っています。
また、他にいくつか事業を経営している社長夫婦です。人がいいので、ピッコロに財産を狙われています。
なお、ピッコロはカエル夫婦の豪邸の庭の物置小屋に住んでいます。
ブラック3900(ブラックサンキュウ)先生
たぐいまれなる天才外科医であり、歯科医であり、精神科医であり、他人が考えつかないような新薬を開発する天才薬剤師でもあります。普段はカエル夫婦の経営する「カエル医科大学」の研究室に勤務しています。
趣味は麻雀で、得意な役は国士無双です。長年、プロ雀士試験に挑戦していましたが、昨年、満願叶って合格しました。