よっしーworld

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第3話 ピッコロの注文の多い料理店

     2017.5.3更新

 

 友達のいないピッコロは、一人ですっかりイギリスのロックバンドのようなかたちをして、ピカピカするリストバンドを巻いて、山へ狩りに出かけました。

 でも、生き物の命をとるということは、自分の手を汚すことになると思い、自分だけはきれいなままでいたいので、「もみじ狩り」をすることにしました。

 

 ピッコロが家を出るとき、細かい雨が降っていました。

 ピッコロは、「今日は雨が降っている。してみれば雨天といってよいな。」と、つまらないことをつぶやきました。まるで、どこかのおじさんのようです。

 それから、林の方へ進んで行きました。

 途中で蜘蛛が一匹、目の前を横切りましたが、その蜘蛛をよけようとして転んでしまいました。

 そして林へ着くと、ずんずん深い林の中へ進んで行きましたが、「もみじ」は一枚も取れませんでした。

 

 ピッコロは、帰りに「もみじ」でも買って帰ろうとしましたが、帰り道がわからなくなっていました。

 でも、どこかにきっと食堂があるに違いないと思ってあたりを見てみると「タマちゃん軒」という大きな看板がありました。こんな山の中ですが、ずいぶんと立派な食堂です。

 ピッコロは、「たぶん、この食堂で偉い政治家が人目をはばかって、お食事を接待されたに違いない。」と思いました。ピッコロは、「汚職事件」のことを「お食事券」で接待することだと思っていました。

 

 入り口を入るとお正月のお供えのようなお餅と、その横にそのお餅の絵が飾ってあります。ピッコロは、この意味不明の餅と絵を見て、たぶん、偉い政治家をもてなす飾りなのだろうと思い、「まるで、絵に描いたような餅だな。」と、さらに意味不明なことをつぶやきました。

 

 ピッコロが家の中に入ってみると部屋の突き当たりにドアがあって、「こちらへどうぞ」と書いた紙がはってあります。

 

 ピッコロがドアを開けると、水の入ったタライが置いてあり、その横には「料理を食べる前に、きれいに体を洗ってください。洗い残しがないようきれいに洗ってください。洗い終わったら、次の部屋へどうぞ。」と書いた紙が置いてあります。

 

 ピッコロは体を洗って、次の部屋に行くと、「自分の毛をむしってください。頭も体も毛をむしってください。まだまだむしってください。むしり残しがないよう丁寧にむしってください。それができたら次の部屋へどうぞ。」と書いた紙が床に置いてあります。

 ピッコロは、素直に頭と体の毛をむしって次の部屋に行きました。

 

 そして次の部屋に行くと、まな板とネギが置いてあり、その横に「ネギを切ってください。一口サイズに切って串に刺してください。それを持って次の部屋へどうぞ。」と書いた紙が置いてあります。

 ピッコロは、そのとおりにしました。

 

 すると、次に部屋には食欲が出るようないい匂いがするお風呂があり、その横に「大変よくできました。毛をむしったら寒くなったでしょう。温かいお風呂を用意していますから、どうぞお入りください。ネギを刺した串といっしょにどうぞお入りください。」と書いてあります。

 ピッコロは、串を持ってカワズのようにドブンとお風呂に飛び込みました。あたりは静かで、お風呂に飛び込む音だけが聞こえます。そして、自分の体をなめてみました。それは、とてもおいしい焼き鳥のタレでした。 

 このときになってピッコロは、「ここは猫のタマちゃんのお家で、このままでは焼きとりにされてタマちゃんに食べられてしまう。」と、やっと気がつきました。ピッコロは少し利口になり、一皮むけたような気がしました。 

 ピッコロは、タレのお風呂から逃げようとして、元気なカワズのように、ただもがいているばかりでした。

 

 すると、遠い遠い天井から銀色の蜘蛛の糸が、まるで人目にかかるのを恐れるように、一筋細く光りながら、するすると自分の上へ垂れてまいるではありませんか。

 この蜘蛛の糸は、お釈迦様が極楽の蓮池のそばからお下ろしになったものでした。

 

 殺生の嫌いなピッコロは、ここへ来る途中で、歩いている蜘蛛をよけようとして自分が転んでしまいました。

 お釈迦様のおん目からみれば、蜘蛛の命を助けたように見えたに相違ありません。このようないいことをしたのですから、お釈迦様はピッコロを助けてやろうとお思いになられたのでした。

 

 ピッコロは蜘蛛の糸を見ると「しめた、しめた。」と思い、蜘蛛の糸にしがみつくと少しずつ上の方に上っていきました。

 そして、「他人はどうなってもいいので、自分だけは助けて下さい。」と心の底から素直な気持ちで願いました。

 そのときです。ピッコロのつかまっているところから、蜘蛛の糸がぷつりと音を立てて切れました。

 ピッコロは、びっくりしました。

 

 ピッコロは、自分さえ助かればよいというあさましい考えを素直に思っただけでしたが、そのせいで糸が切れたのではなく、糸がほつれて細くなっているところがあったために、そこから切れてしまっただけのことでした。

 ピッコロは、ただ運が悪かったのでございましょう。あとにはただ、極楽の蜘蛛の糸が、キラキラと細く光りながら部屋の中途にたれているばかりでございます。

 

 お釈迦様は、その一部始終をごらんになっておりました。そして、ご自分がお下ろしになられた蜘蛛の糸を、いそいでたぐり寄せられました。

 そして、その糸をお手にお取りになりご覧になってみますと、ほつれて細くなり、今にも切れそうなところが何箇所かございます。

 お釈迦様は、ほんの少しお顔を赤らめられました。

 極楽は、もう昼に近くなったのでございましょう。

 

 一方、ピッコロは、コマのようにくるくるとまわりながら、ドシンとタマちゃんの上に落ちました。

 タマちゃんもびっくりして、「プルルル。」と巻き舌のような声で鳴いてどこかへ行ってしまいました。

 

 ピッコロは怖かったので、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、心と顔がしわでクシャクシャになってしまいました。自宅に戻ってから温かいお風呂に入っても、もう元には戻りませんでした。