よっしーworld

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第2話 ピッコロの杜子春 

     2017.4.29更新

 ある春の日暮れです。唐の都、洛陽の西の門の下にぼんやり空を仰いでいる一人の若者がありました。若者は名をピッコロといい、かつて、ささやかな金額ですが、宝くじが当選したことがありました。

 それを見ていたまわりの人は、ピッコロといっしょに宝くじを買うようになり、その後、一度ならず二度までも高額当選し、ピッコロは大金持ちになりました。そして、まわりのみんなの出資金額に応じて当選金を分配して生活していました。

 

 ピッコロは、大金持ちになると贅沢な暮らしをしはじめました。庭にミステリーサークルやストーンサークルを造るやら、地上絵を描いてみるやら、顔が七つある七面鳥を何羽も放し飼いにするやら、日に三たび花の咲く朝顔と昼顔と夕顔を交配した新種を作るやら、鶴に機(はた)を織らせるやら、流木で車を造らせるやら、象をいすの代わりに座ってみるやら、もういちいち書いていたら、いつまでたってもこの話が終わりにならないほどです。

 

 すると、そんなうわさを聞きつけて、ピッコロといっしょに宝くじを買いたいという出資者はどんどん増え、ピッコロの家には毎日たくさんのお客様が訪ねてきて、友達のいないピッコロにたくさんの友達ができました。

 ピッコロは、その友達と3000円の会費で毎日、宴会を催しました。その宴の盛んなことは、なかなか語り尽くせるものではありません。ごくかいつまんでお話ししても、貝塚から出土した土器に焼酎を酌み交わしながら、天竺から来た魔法使いがナマケモノのまねをして木にぶら下がっている芸に見とれていると、そのまわりには20人の女たちが、10人は蜂の巣を、もう10人は松ぼっくりをそれぞれ髪に飾りながら、もの悲しく木琴を奏しているという景色なのです。

 

 しかし、そのような贅沢な暮らしは、そういつまでも続くものではありません。次第にお金がなくなり、三年もたつと、とうとう一文なしになってしまいました。

 そして、今では電信柱の上にあったカラスの古巣も電力会社から依頼された清掃作業員に撤去され、今夜、寝るところもなくなり、どうしたものかと洛陽の西の門の下にたたずんでいるのです。

 あたりは夕日をあびて絵のような美しさですが、気の早過ぎるニワトリが二、三羽鳴いています。

 

 するとどこからやってきたか、突然、彼の前へ足を止めた両目がパッチリした老人があります。そして、じっとピッコロの顔を見ながら、「おまえは何を考えているのだ。」と、おうへいに言葉をかけました。

 

 ピッコロは、老人にむかって正直に言いました。

 「私はピッコロという者で、以前、くじ運がよかったのです。私に宝くじが当たって大金持になった時には、友達は世辞も追従(ついしょう)もして、私といっしょに宝くじを買っていたものです。

 しかし、私のくじ運が尽きて貧乏になってごらんなさい。あれほどたくさんいた友達は優しい顔ひとつしません。それどころか、今ではカップに一杯の焼酎も恵んでくれないのです。

 人間は皆、薄情です。私は、もう人間というものに愛想が尽きたのです。

 ですから、どうか私を金持ちにしてください。

 いえいえ、隠してもダメです。私にはわかっています。あなたは徳の高い仙人でしょう。そうでなければ、私があなたに話をするはずがありません。」

 

 老人は、おごそかに言いました。

 「いかにも。俺は眉毛山(まゆげやま)に住む鉄冠子(てっかんし)ジュニアという仙人である。

 そこで、ピッコロ君。どうだ、これから俺といっしょに眉毛山へ行って、仙人の修行でもしてみないか?」

 すると、ピッコロは、あっさり断りました。

 「いいえ、それはダメです。それは、今の私にはできません。修行とは苦しくてつらいものでしょう。そんなことはできません。」

 

 この意外な答えに、鉄冠子ジュニアは、あてが外れて眉をひそめました。

 しかし、すぐに気分を直して、次のように言いました。

 「それでは、俺がいいことを教えてやろう。今、この夕日の中に立って、おまえの影が地に映ったら、その頭にあたるところを夜中に掘ってみるがよい。きっと、大きな車に積みきれないほどの黄金が埋まっているはずだから。」

 

 それを聞いて、ピッコロは言いました。

 「いえいえ、それもダメです。私は10tトラックに積みきれないほどの黄金が欲しいのです。」

 

 それを聞いた鉄冠子ジュニアは眉間にしわを寄せると、一言も口をきかず自分で穴を掘り、埋まっている黄金を見つけると、まろぶように両手で抱きかかえ、ハラハラと涙を流しながら、「おかねさん。」と一声を叫びました。そして、自分で持って帰ってしまいました。

 ピッコロは、びっくりしました。

 

 ふと気がついてみると、ピッコロは以前のとおり、洛陽の西の門の下に立っていました。あたりは、しっきりなく人と車が往来しています。

 すべてが、まだ眉毛山へ行かない前と同じことです。

 

 空には、まるで瓜(ウリ)かと思うような細長い三日月が懸かっていました。